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東京高等裁判所 昭和32年(う)940号 判決

控訴人 被告人 橋本常雄

弁護人 成富安信

検察官 田辺緑朗

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は弁護人成富安信及び被告人本人各作成名義の各控訴趣意書に記載されたとおりであるから、ここにこれを引用し、これに対し次のように判断する。

弁護人の論旨第一点の(三)について

原審が被告人に対する昭和三一年(わ)第二六七七号詐欺被告事件に大森簡易裁判所に係属中の被告人及び原審被告人山下正治に対する同年(ろ)第六六一号、第七五二号窃盗被告事件を併合して審理する旨決定したこと、及びこれに対し大森簡易裁判所は何らの裁判をすることなく、右窃盗事件の一件記録を原審に送付したことは所論のとおりである。而して原審の右措置は刑事訴訟法第五条第一項に基き上級審としてなした併合決定であること明らかであつて、かような決定があつた場合には、下級審に係属中の事件は、当然にその係属を離脱して該決定をした上級審に係属するに至るのであるから、下級審としては一件記録をその上級審に送付するだけで足りるものと解すべきである。それゆえ大森簡易裁判所が原審の所論併合決定に基き前示窃盗事件につき公訴棄却の決定等をすることなく、同事件記録を原審に送付したのは正当であつて、何ら所論のような違法の廉は存しない。論旨は理由がない。

(その余の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 谷中董 判事 坂間孝司 判事 荒川省三)

成富弁護人の控訴趣意

第一点(三) 原審東京地方裁判所は本件につき、これより前大森簡易裁判所に係属していた窃盗事件二件(原判示第二事実の(五)と(一)乃至(四))を併合審理する旨決定をなし(記録第五丁)、これに対し大森簡裁では何等の裁判をすることなく直ちに記録のみを原審に送付した(添附記録第二三、二四丁)。

この処置は刑訴法第五条第一項に基いたものと解されるが、かかる場合併合決定をうけた下級裁判所としては刑訴法第三三九条第一項第五号を準用して公訴棄却の決定をなすべきである。

高窪喜八郎久礼田益喜共編刑事訴訟法学説判例総覧上巻二六頁「下級裁判所で決定を要するかどうかは疑問であるが手続の確実性のため公訴棄却の決定を要するものと解するのが正当であろう(三三九のI4準用、ただし三三九IIの準用はないと解する。)」〔註―改正前の法条〕。条解刑事訴訟法上(団藤重光著)一九頁も全く同説。滝川幸辰等三名共著法律学体系コンメンタール編10刑事訴訟法一九頁「この決定があれば下級裁判所はいかにすべきかに関し明文はないが、第三三九条第一項第四号の準用を認めて公訴棄却の決定をすべきものと解する。ただし同条第二項の準用はない。」。然るに何等の決定もせず、記録のみ送付した大森簡裁の処置及び斯かる処置を受け乍ら漫然事件を併合審理した原審東京地裁の審理は刑訴法第三七九条及び同法第三七八条第二号に該当する違法あるものである。而して右処置に対し同法第三三九条第二項の適用なしとするは通説であるから、併せて御庁の御判断を受くべきものと考える。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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